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岡山地方裁判所 昭和57年(ワ)68号 判決

原告

谷口京子

被告

トナミ運輸株式会社

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金三一三万一九五〇円および右金員につき被告トナミ運輸株式会社は昭和五七年二月六日から、被告福田三男は同年四月六日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し金八四〇万七八〇〇円と内金八〇〇万七八〇〇円について被告トナミ運輸株式会社は昭和五七年二月六日から、被告福田三男は同年四月六日から、内金四〇万円についてはいずれも判決言渡しの翌日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、左記自動車(以下本件自動車という)ほか一台を所有して、運送業を営んでいるものである。

車種 大型貨物車(トレーラー、一五トン車)

車両番号 岡一一は六七七〇

同 岡一一ひ五〇九五

2  本件自動車は、左記交通事故により損壊し、原告従業員である同車運転手神崎憲昭も同事故で負傷し、就労不能となつたため、本件自動車は稼動できなくなつた。

(一) 発生日時 昭和五五年一二月二九日午前四時三五分ころ

(二) 発生場所 富山県射水郡小杉町稲積七三の一

(三) 加害者 福田三男(被告トナミ運輸の従業員運転手)

(四) 加害車両 大型貨物車 富一一か四六〇七(被告トナミ運輸所有)

(五) 被害者 神崎憲昭

(六) 被害車両 本件自動車

(七) 事故態様 加害車両が被害車両に追突したもの

3  被告福田三男は、進路前方不注視の過失により本件追突事故を発生させたものであるから、民法七〇九条により、本件事故で原告が蒙つた損害を賠償する責任がある。

被告トナミ運輸株式会社は、被告福田の使用者であり、本件事故はその事業(運送業)の執行中に発生したものであるから、民法七一五条により、原告の右事故に基づく損害を賠償すべき責任がある。

4  本件事故により原告が蒙つた損害は、つぎのとおりである。

(一) 営業損害

(1) 原告が、本件自動車により、昭和五五年一一月、一二月に得た運送水揚げ、経費、純益は、左のとおり(本件自動車は昭和五五年一一月から稼動開始したもの)。

一一月分水揚げ 金三〇五万七六〇〇円

同経費 金一四三万二六〇〇円

同純益 金一六二万二五〇〇円

一二月分水揚げ 金二一四万五二〇〇円

同経費 金一〇三万三七〇〇円

同純益 金一一一万一五〇〇円

(2) 右二か月間の平均純益は金一三六万七〇〇〇円

(3) 運転手の神崎は、本件事故による負傷のため、昭和五六年五月一二日まで就労できず、被告トナミ運輸は原告の要求に応じて代替運転手を原告に派遣しなかつたため、本件自動車は前記五月一二日まで稼動し得なかつた。

(4) 従つて、本件自動車の稼動不能による原告の営業上の損害は、昭和五六年一月一日から同年五月一二日までの金六〇一万四八〇〇円。

算式 〈省略〉

(二) 車両損害

(1) 本件自動車は、原告が昭和五五年九月二四日に訴外日産デイーゼル岡山販売株式会社から代金一〇八〇万円(割賦手数料二七八万八〇二七円を除く)で購入(但し、納車は一〇月末)したもので、本件事故直前の車両の時価は金七四〇万六〇〇〇円(昭和五五年一二月二四日現在)であつた。

(2) ところが、本件事故により本件自動車が稼動できなくなり、そのため原告は割賦代金の支払いができず、昭和五六年五月、訴外日産デイーゼル岡山販売株式会社から本件自動車の売買契約を解除された。この契約解除に伴ない、訴外日産デイーゼルは本件自動車を引取り、引取り価額を金五六一万三〇〇〇円とした。この価額は本件自動車を修理した後の評価である。

(3) 従つて、右差額の金一七九万三〇〇〇円は、原告が本件自動車につき、本件事故のため蒙つた損害(格落ち損を含む)である。

(三) 弁護士費用

(1) 着手金 金二〇万円

(2) 報酬 金四〇万円(但し、判決時支払いの約)

5  本訴請求

よつて、原告は、被告両名に対し各自金八四〇万七八〇〇円と内金八〇〇万七八〇〇円については各被告へ訴状送達の翌日以降、内金四〇万円については判決言渡の翌日以降各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する被告らの認否

1項の事実は不知。

2項については、本件自動車が交通事故により損壊した事実のみ認め、その余の事実は不知。

3項については、事故の態様は争い、その余の事実は認める。

4項の事実は争う。

(一)  営業損害について。

原告所有の本件車両は、自家用ナンバー(白ナンバー)であり、営業用として使用することを禁じられている。そうすると、原告請求にかかる収入は、違法な行為によるもので、損害賠償の対象とはならない。

つぎに、本件自動車の修理期間は、昭和五六年一月六日から同月一六日までの一〇日間で、日産デイーゼル岡山において修理を完了している。

ところで、運送を業として収入を得ている者は、本件の如き事故発生にそなえ、道路運送法の規則により、代替車両および運転手を常備しておくことが義務づけられている。

もし、原告に予備の運転手がいなかつた場合でも、職業安定所、新聞広告、その他の求人方法を尽せば、代替運転手を確保し得たのであり、これら損害は本件事故と相当因果関係がない。

(二)  車両損害について

本件自動車の売買契約が解除されたのも、原告の割賦代金未払いによる。右契約解除に伴なう修理後の本件自動車引取り価額も安価に過ぎる。いずれにしろ、この損害も発生原因はすべて原告側の事由によるもので、本件事故と相当因果関係を欠く。

三  被告らの主張(抗弁)

1  過失相殺

本件事故の発生については、本件自動車の運転手である原告従業員の神崎憲昭にも、後方の安全確認を尽さず、不用意に停車し、後続進行中の被告トナミ運輸の従業員福田三男運転車両の進路を塞いた過失があるから、損害賠償額の算定にあたつては、過失相殺されるべきである。

2  損害の填補

本件自動車の修理費用二〇万九一六〇円は被告会社が支払つた。

四  抗弁に対する原告の認否および反論

1  過失相殺の主張は争う。本件事故は、被告福田の車間距離不保持、進路前方不注視、積雪のある道路でのタイヤチエーン不装着等の一方的過失による追突事故で、原告側にはなんらの過失もない。

2  原告請求の損害について

(一) 原告の白ナンバーとしての営業が、たとえ道路運送法により公法上禁止されているとしても、その営業により生じた収益が、私法上も当然に違法な収益となるものではなく、私法上の損害賠償の対象となり得る。

(二) 原告は、その所有車両が稼動できないことによる損害の発生を軽減すべく、被告会社に対し、(1)代替運転手の派遣、(2)当該車両の買取り申し入れ等したが、いずれも被告会社の受け入れるところとならなかつた。

なお、原告の如き零細な運送業者にあつて、代替の大型トレーラー運転手を、本来の運転手である神崎の負傷治癒後は、同人を就労させる義務が原告にある関係から、短期間に限り雇用することは不可能事である。

第三証拠〔略〕

理由

一  成立に争いのない甲第一、二、三号証、証人谷口哲二、同神崎憲昭の各証言によると、請求原因1、2の事実を認定でき、同3の事実は、事故発生の態様以外は当事者間に争いがない。右事実によれば、被告らは各自、原告が本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任があるので、つぎに、その損害につき判断に及ぶ。

二  証人谷口哲二の証言およびこれにより成立を認め得る甲第四、第五、第一三、第一四、第一五号証、第一六号証の一ないし四に、弁論の全趣旨を総合すると、つぎの事実を認定できる。

1  本件自動車は、遅くとも昭和五六年一月二三日には修理を終えて原告に引渡され、使用可能となつたものゝ、従来同車両の運転に当つていた原告雇用運転手の神崎憲昭の本件事故での負傷が、同車の運転ができるまでには快復していなかつたので、その快復を待つうち、原告において、同車購入の割賦金の支払いを滞つたことから、昭和五六年五月末に右車両を販売元に引揚げられた。

2  原告は、昭和五五年一一月初めから、本件自動車を長距離輸送用に使つて稼動しはじめ、同月の同車による運賃水揚げ高は金三二七万六八〇〇円、必要経費(フエリー運賃、高速道路通行料金、運転手給料、同食事代、燃料費、タイヤ摩耗、車両修理費)一九六万六四〇〇円を控除後の純益は金一三一万〇四〇〇円、同年一二月の運賃水揚げ高は金二二〇万九二〇〇円、必要経費一二四万一七〇〇円を控除した純益は金九六万七五〇〇円(従つて、この間の平均純利益は月額金一一三万八九五〇円)であつた。

3  原告は、本件事故当時、道路運送法所定の営業免許を受けずに運送業を営んでいた。

右事実のもとで、本件事故と相当因果関係のある右車両使用不能による営業損害の範囲について検討するに、車両の修理自体に要した期間は、さきのとおり事故後一か月足らずであり、通常の場合、雇主としても、雇用運転手の負傷の快復が長引くようであれば、臨時に代替運転手を雇入れるなりすべきで、これに要する期間としても、事故後一か月程度を見込んでおけば足ると思料され、一方、この程度の期間内の損害は、加害者である被告らとしても当然に予見し得べきものといえる。

ところが、原告主張の如く、事故被害車両の運転手の代りがいないため、同運転手が稼動可能なまでに症状が快復するまでの間に生じた車両使用不能による損害の賠償を求めることは、さきのように原告が営業免許を受けずに運送業を営んでいたものであることも、代替運転手の確保が容易でない一因となつていると考えられ、車両使用不能による収入損を軽減すべく代替運転手の派遣を被告会社に申しでた事実が、証人谷口哲二の証言から窺えるが、これとても原告が無許可営業である以上、被告会社が右申し出に応じなかつたことをもつて、別異の考慮をすべき事情ともなし得ない。却つて、この間の事情に鑑みるならば、前記一か月間に限つても、その間、原告が従来収得していた平均純益の全額相当をたゞちに損失とみることにも問題がないわけではない。しかしながら、休車期間を相当程度制限したことゝの均衡上、あえてそれ以上の制約を加えないことゝして、右損害は、結局従前の純益の一か月相当額たる金一一三万八九五〇円と認定するのが相当である。

従つて、これを超える分については本件事故と相当因果関係がない。

三  車両損害については、証人谷口哲二の証言とこれにより成立を認め得る甲第八号証の一、二、第九号証の一、二によると、本件事故発生前である昭和五五年一二月二四日当時の本件自動車の価額は金七四〇万六〇〇〇円であつたところ、右事故後は、事故による損傷個所修理後も、なお昭和五六年四月二〇日の時点で、金五六一万三〇〇〇円の価額しか有しなくなつていることが認められる。右事実によれば、原告は、本件事故により前記差額相当の金一七九万三〇〇〇円の損害を蒙つたものと認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四  過失相殺の抗弁については、成立に争いのない甲第一七号証、乙第一号証、証人神崎憲昭の証言、被告福田三男本人尋問の結果によると、本件事故発生の態様は、つぎのようであつたことが認定できる。

1  事故発生現場の道路は、直線状で進路前方に対する見とおしはよいが、本来片側二車線の車両が、当時は積雪のため有効幅員が五メートルほどに狭まつていた。

2  事故前、神崎憲昭運転の本件自動車の前方を普通自動車が進行していたが、同車が神崎車を先行させるためか前方道路左側に停車した。そこで、神崎車も同車の後方で一旦停車したが、同車の右側を通過し得ると判断し、右にウインカーをだし、サイドミラーで後方を確認したところ、被告福田運転車は相当後方であつたので、右に転把して、ゆつくり発進し、普通自動車と本件自動車(車幅は被牽引車とも二・四九メートル、車長は五・五九メートルと被牽引車が一一・〇八メートル)の先頭部がほゞ並ぶころ、右福田車に追突された。

3  一方、被告福田は本件加害車両を運転して時速約四〇キロメートルで、先行の普通自動車、それに続く本件自動車(神崎運転のトレーラー)に追随進行していたが、右普通車が左側車線寄りに停車し、後続の右トレーラーも殆んど並ぶようにして停車した状況に気づき、トレーラーの後方約二四メートルの地点で危険を感じ、続いて制動措置をとつたものゝ、路面が凍結していたことに加え、タイヤチエーン装着不十分のため、スリツプし、有効、適切な制動効果を得ないうちに本件事故を発生させた。

右事実によると、本件追突事故は、積雪道路上での自動車運転手である被告福田の先行車両の動向注視不十分によるもので、原告従業員運転手の神崎に、被告ら主張の如き「後続車両の交通の安全を確認することなく、不用意に停車し、その結果、後続進行車両である被告福田運転車の進路を塞ぎ、本件追突事故を誘発した」との事実は認められず、他に同人に過失相殺をなすべき程の過失も認めがたいので、結局前記抗弁は理由がない。

五  弁護士費用

本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告らに対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金二〇万円とするのが相当であると認められる。

六  結論

よつて、被告らは各自、原告に対し、金三一三万一九五〇円とこれにつき各訴状送達日の翌日であることが記録上明らかな被告トナミ運輸株式会社にあつては昭和五七年二月六日から、被告福田においては同年四月六日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用し、なお仮執行宣言の申立については相当でないからこれを却下することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 相瑞一雄)

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